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GrassNote デザイナー 皆川武司 インタビュー

ファッションの世界にひかれて、進むべき道を大きく変える人がいる。CTデザイナーのGrassNote皆川さんもその一人だ。アマチュア部門の大賞を受賞したことで芽生えたある種の勘違いは、皆川さんの人生にどう作用したか? 学生時代から大賞受賞までと受賞後、そしてGrassNoteへと続く皆川さんなりのファッション道をご紹介。

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16-17AWコレクションから

学生時代からアマチュア部門に応募するまでの経緯を教えてください。

高校は商業高校を選択していたので、簿記とか勉強して、将来は税理士にでもなろうと思っていたんです。そのための専門学校に進みまして、国家公務員の試験にも受かっているんです、実は。

そうなると、ますますファッションに路線変更したきっかけを知りたいのですが?

仙台に出て友達になったのがファッションを目指す人ばかりだったんです。文化服装学院の連鎖校の学生ですね。それで、自分が通っている専門学校には友達ができなかったという。高校生のときだってファッションに興味はあったんです多分。でも商業高校だったから、東京の文化服装学院も進学説明会に来てくれないし、ファッションにコンタクトする方法が分からなかったというのが本当のところだと思います。今みたいにネットもないですしね。そうして仙台に出て来たら、宮城文化服装専門学校の友達ができて、彼らがおしゃれで、感化されて。あれ?って思いました。公務員になるので本当にいいのかなって思って。それで、公務員試験に受かったにもかかわらず、それを蹴って上京したんです。これ以上両親には迷惑をかけられないから、アルバイトをしながら通える学校と思って探していたときに、伊東衣服研究所に行きつくわけです。パターンが重要なんだってことは、仙台のときの友達から聞いて知っていたので、伊東先生のところでは立体裁断とパターンの勉強がしっかりできると知って決めました。週に2~3回、伊東先生のところに通っていました。

晴れてファッションの勉強ができたわけですが、どんな学生でしたか?

立体と平面の両方を勉強したんですけれど。常に作っているだけで、特別友達なんかもできなかったです。友達にもならないで、ひたすら取り組む。すでにパタンナーとして働いている人がさらに磨きをかけるために通っているケースが多くて、何の経験もないまま入学したのは自分を含めて数人でした。伊東達也先生は研究所創設者の伊東茂平先生の息子さんで、先生に習うことができたことが良かったですね。オンワード新人デザイナーファッション大賞(現Tokyo新人デザイナーファッション大賞アマチュア部門)に応募したのは3年生のときです。たまたま学校に貼ってあった、応募を呼びかけるポスターを見たことがきっかけでした。

ポスターの効果、あなどれないですね! そのときに提出されたデザイン画を発掘してきました。すごく丁寧に描かれていますね。画材は色鉛筆ですか?

実はデザイン画を描いたときの記憶がないんです(笑)。デザイン画に添付されたサンプルもどう思ってつけたか忘れてしまいました。研究所ではデザイン画の授業もありませんし、それまでも絵を習ったりしたことがなかったから、どうしようかな、、、、と考えまして。でも美術の授業とかで絵を描くことは好きだったんです。それで、とりあえず描いてみたんだと思います。3バリエーションくらい描いたかな。余計な情報がなかったのが良かったのかもしれませんね。一番扱いやすそうな色鉛筆で彩色して、画風は意外と今と変わってない気がします。

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応募したデザイン画

それで無事一次審査会を通過して、作品を作ることになるわけですが。

アルバイトと研究所通いとの隙間を縫って、自宅で一生懸命作りました。ドレス全体のフォルムを形作るベースを作った上に薄いシフォンで覆って、そのシフォンに赤いモヘア糸でひたすらランニングステッチをしていきました。これ手縫いなんですが、縫い直しは一切無し! さすがにその記憶はあります(笑)。とにかくデザイン画に書かれている言葉どおり「体中に張り巡らされている毛細血管をイメージ」して、「人間に流れている血の温かさやぬくもり」を表現したかったのですから!

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17SSコレクションのデザイン画

常に冷静なイメージと発言が皆川さんらしさですが、大賞を受賞したときにはやっぱり感激しましたよね?

賞を取ったときは、もちろん嬉しかったです。今は最終審査会を先にしておいて東京のファッションウィーク中に結果発表ショーと表彰をするそうですが、その頃はショーがそのまま最終審査会で、その場で即点数が出て勝敗が決まるわけです。スリル満点ですよね。審査員もゴルチェなんかがいて。審査員の中には伊東達也先生もいらっしゃいました。先生には途中経過を見せたりしませんでしたね。恥ずかしかったのもあるし、そんなことを考える暇もなかったというか。それで、ここがポイントなんですが、大賞を受賞したことで天狗になりまして。。。「賞って、こんなに簡単に取れるんだ!」と思っちゃった。90年代の終わり頃はまだDCブランドという言葉があって、東京コレクションも物凄く盛り上がっていて。さらにはネットも無いから、コレクションで発表された作品は雑誌とかショップに行って直接見ないと分からない時代でした。つまり日本のファッション界全体が盛り上がっていたので、賞を受賞したことで自分ももの凄い盛り上がってしまって、今すぐにでもデビューできると錯覚したんです。それが23歳くらいですね。

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大賞受賞作品

学校を卒業して天狗状態になって、次にどんな道を選んだのですか?

天狗なので、ブランドなんて簡単に立ち上げられると思っていました(笑)。それまでの期間はバイトでつなげばいいやと思って就職もしないで、知り合いが紹介してくれたスポーツウェアの企画会社にアルバイトとして入ったんです。スポーツ衣料の分野がまだまだ今ほどカッコよくなかった時代です。言葉は悪いですが、ダサい時代でした。でも実はギャルソンに履歴書と手紙を出しにいったりもしました。心のどこかにモードと呼ばれる世界のトップブランドへの心残りがあったのだと思います。アポイントメントも入れずに直接会社に行って、総務課に行って履歴書を提出したんですが。かなり体当たりでしたね。もちろん何の返事もありませんでした。もしもファッションの専門学校に行っていたら就職活動の方法も少しは分かっていたと思うのですが、分からなかったんです。でも結局はそれで良かったと思っています。結果、お声掛けいただいたスポーツウェアの分野に進みました。

アルバイトの道は平坦でしたか? 険しかったですか?

平坦でも険しくもなかったけれど、とにかくそこでの経験が、今の自分の基礎を作ってくれました。出会うべき人ともそこで出会っています。今現在任せてもらっているスポーツウェア関係の仕事なんて、この時代があるからこそ引き受けることができるんですよね。その後、アイメックスという会社に入りました。当時はUAとかSHIPSといったセレクトショップのOEMを引き受けていて、そこでも大切な出会いにたくさん恵まれました。

スポーツウェアの仕事で学べたことは?

ちょうどスポーツウェアの分野が飛躍的にカッコよく進化し始めたタイミングでしたから、素材や機能性に関してはとっても勉強になりました。素材開発なんかも経験できましたし、20代のときに大きな合繊メーカーの中国工場に連れて行ってもらったことも、とてもいい経験でした。アルバイトを始めたときから漠然とですが、30歳を一つのターニングポイントの年齢にしようと思っていました。だから30歳で自分のブランドを立ち上げて、再スタートをしました。ブランド名はfacture(ファクチュール)と言ってマニファクチャーとクチュールの合成造語のつもりだったのですが、フランス語で“領収書”の意味だと知って、現在のGrassNoteに改称したんです。

もしも賞をとらなかったら、どうなっていたのでしょうかね?

賞を取ったことで自信がつきましたし、出身学校に関係なく仕事をして生きていくことができるんだなと思いました。その気づきは大きいです。もしも賞を取らなかったら、普通に企業に就職していたと思うんですよね。今振り返ると賞をいただいて、天狗になって、遠回りしたなと思います。でも結果良かった。モードとは違う分野が見れたから。働き始めてからのほうが沢山勉強しましたし、そこでの知識と経験はとても役立っています。でも、そう思えるようになったのはつい最近です。やっとですよ!今日用意してくださったデザイン画を見たら、変わっていないなと思うし、こんなアナログな素材で手縫いなんてアナログなことをしているけれど、仕上がった作品を見ると透け感とかがね、何か近未来的なことをしようとしているんですよね。今気づきました。どこかスポーツウェアの世界につながっていると感じます。

グラスノートにブランド名を変更して2年経ちました。これから、どんなふうに育てていこうと思いますか?

今は合繊の機能素材とかを使って、スポーツウェアだけでなくアウトドアのデザインにもかかわっています。けれどアウトドアってゴワゴワしていて、ハードで、どうしてもメンズ中心の世界なんですよね。だから敢えて合繊の素材を使った美しい服を作ってみたい。日本の合繊の新しい表情や、強み、特徴を生かしたモノづくりをしていきたいと考えています。特に17SSは自分の中にあるスポーツテイストを砕いていきたいと思っていて。もともとあるスポーツテイストに、優しさや着心地、軽さ、肌触りの良さといった要素を加えていきたい。そしてぜひ普段に着てほしいです。新しいグラスノートに期待してください。

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新作の17SSコレクションと皆川さん

PROFILE

皆川武司 Takeshi Minakawa 
1976年、福島県生まれ。伊東衣服研究所在学中の2000年、第17回オンワード新人デザイナーファッション大賞(現・Tokyo新人デザイナーファッション大賞アマチュア部門)大賞受賞。07年に株式会社アディット設立。2008 S/S より自身のブランド「facture」(ファクチュール)をスタート。14年にブランド名を「GrassNote」に改称。
official site:http://www.grass-note.com

 
PHOTO : Hiroyuki Takashima
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