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CREATORS TOKYOブランドと、そのモノづくりを支える人達・下

2011年からスタートした、東京発信のブランドをサポートするファッションアワード「Tokyo新人デザイナーファッション大賞プロ部門」を受賞した2つのCREATORS TOKYOブランドと、彼らのモノづくりを支える人々との対話の2回目は、KIDILL(キディル)桐生整染商事株式会社による対談。

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左)川上由綺 桐生整染商事株式会社 テキスタイルデザイナー :神奈川県出身。多摩美術大学卒業。フィンランド・アアルト大学への交換留学でテキスタイルデザインを学び、卒業後、桐生へ移住。若手テキスタイルデザイナーのプラットフォーム「NINOW(ニナウ)」のメンバー。
右)末安弘明KIDILLデザイナー :大村美容ファッション専門学校卒業、2014年に「KIDILL (キディル)」を立ち上げる。 2017年度Tokyo新人デザイナーファッション大賞プロ部門入賞、東京都知事賞受賞。
PHOTO: Kyohei Hattori

2017年に「Tokyo新人デザイナーファッション大賞プロ部門」(以下、ファッション大賞)に入賞、同時に東京都知事賞を受賞し、CREATORS TOKYOのメンバーとなったKIDILL。今年1月には2019年秋冬コレクションを初めてパリで発表した。ブランドのクリエイション面を支える素材開発のサポート「産地コラボレーション支援」を受け、全国の産地に精通した株式会社糸編の宮浦晋哉コーディネートのもと、桐生整染商事株式会社と出会った。デザイナーとテキスタイルデザイナーがイメージを共有し、一緒にモノづくりをしていくことについて聞いた。

― 今年1月に2019年秋冬コレクションをパリで発表されましたね。直前のWWD JAPAN.comのインタビューで「今しかない!」という言葉が印象的でした。

末安弘明(以下、末安):ファッション大賞に入賞できたことが本当の意味での始まりでしたね。同時に都知事賞もいただいて各方面にご紹介いただき、注目されました。
2017年の6月に入賞して、10月のアマゾン ファッション ウィーク期間中に、入賞した複数ブランドでのジョイントショーが渋谷ヒカリエで行われたのですが、その時、コム デ ギャルソンやバーニーズ ニューヨークのバイヤーに見て欲しくて自分でインビテーションを出したんです。そうしたらバイヤーの方々が本当に来てくれました。ショーを見た後に展示会にも来ていただいて、その後、コム デ ギャルソンでの取扱いが始まりました。

ファッション大賞を受賞したことは、ブランドPRのツールとして素晴らしい役目をしてくれたと感じます。だから逆に「今しかない!」と思ったんです。今しっかりと動かないと、逃してしまう!って思って、頑張りました。結果、予想を上回るたくさんのことをつかめたと実感しています。
もちろん取扱いがスタートしても、その後がもっと大切ですが。ある百貨店の担当者の方には「消化率100%で、セールまで服が残っていなかった」と嬉しい報告をいただいています。ホッとしましたね。本当に良かったです。ファッション大賞の支援がなかったら、パリにも行かなかったと思うんですよね。

― 「産地コラボレーション支援」を受けて2019年秋冬コレクションの生地を制作するにあたって、コーディネーターの宮浦さんには先に何を伝えたのでしょうか? 桐生整染の川上さんとの出会いも教えてください。

末安:それまで愛用していた海外の生地は、自分が良いと思う色が廃番になってしまったんです。あとそれ以前に海外の生地は納期が遅すぎるんですよね。3~4か月待たないと届かなくて、それでは商品のデリバリーが始まってしまう。そういったことも含めて、何とか国内生産にシフトすることができないかと宮浦さんにご相談しました。作りたい生地のイメージを伝えると、それなら桐生産地がいいと言われて桐生整染さんをご紹介いただきました。新作だけでなく、すでに進行していた春夏商品の量産分の生地も急遽お願いして制作してもらったんです。短い納期で対応してもらって、感謝しかありません!

川上由綺(以下、川上):私は今回のお仕事で初めて、生地の経糸つなぎを全部一人でやったんです。合計6柄をオーダーいただいたのですが、なかなか同じ幅で柄を変えてといった経験はできないので、ものすごいトレーニングになりました。そういう機会でもないと、なかなか技術を覚えられないので貴重な経験でした。

末安:本当に大変な作業をお願いしました。

川上:太めで、あまりやっかいな糸ではなかったのも良かったです。仕上がったら、自分も一歩前進できたと感じました。やはりブランドから注文をいただいても、いつも新しい経験ができるわけではないのでありがたい企画でした。しかも量も結構あって、今どき、なかなかあの量を注文される方はいないと思うのですが…

末安:そういう話を聞けるとブランドとして嬉しいです。当初、チェック柄の服をいっぱい作ろうと思っていたんです。でも途中で方向を変えて、マルチ柄も可愛いなあ、なんて思ったので。

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川上:なんというか、すべての行動に男気があると思います。

末安:入金も速攻で振込みましたよ!部活みたいですね。「オッス!」みたいな(笑)

川上:そういう反応の速さや計画性のある様子とかを感じると、必然的に信頼関係が芽生えますよね。会社側の対応もスムーズになっていって、すべて良くなっていくわけです。産地と付き合うときには人間関係がとても重要なポイントになるので。末安さんは模範解答のような大らかな対応も好印象です。

― 生地作りの中で、テキスタイルデザイナーとイメージを共有していくと思うのですが、どのように進めていきましたか?

末安:一度、工場にも行って織っている現場も見せてもらったんです。それがその後の意思疎通に欠かせないと思ったので。まず現場を見て、会って話をしました。

川上:初めてお会いしたときから、こういう生地をこういうクオリティで作りたいんですと、イメージがクリアでした。

末安:その後も川上さんは結構丁寧に細かいことメールで連絡をくださるので、結果的に進行がすごく早いんですよね。

―「同じ生地でも、設計の仕方が違えば仕上りが違い、設計者の個人差が出てくる」と聞いたことがあります。

川上:私はとにかく末安さんが脳内でイメージするチェック柄を、できるだけ再現することに注力しました。本来は正方形のチェック柄にしたい場合は、若干縦伸びに仕上げるほうが、柄が落ち着いてきれいに見えるんです。完全な正方形にすると、目の錯覚で柄が少し横につぶれたように見えるんですね。それでも、電話口の末安さんは「絶対に正方形で!」とおっしゃっていたので、ぎりぎりの数値で正方形となるチェックを作っていきました。そうやってはっきりと要望を言ってもらえることが嬉しかったし、その微調整は私がプロとして、しっかりと応えるべき点ですよね。

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KIDILL 2019年秋冬コレクションより、制作したチェック柄のアイテムたち

末安:もともと廃番になった生地も大好きだったんですが、川上さんが作ってくださった生地はさらに張り感があって、そこも良かった。工場に伺ったとき、過去スワッチの中から専務の阿部さんがおすすめしてくれたものがあるのですが、これがまたとても良くて。

川上:やはりデザイナー自ら工場に来ていただくことは大切ですね。とはいえ、末安さんは迷いがなくて、決めるのがとても早いんです。

末安:迷ったら、きりが無くないですか? あと、自分がブランドを継続していくうえで、すごく気が楽になった、ある言葉がありまして。実はコム デ ギャルソンで取扱いがスタートするときに、「パンクをずっと続けてください」と言われたんです。それを聞いたら、気が楽になって。ブランドの中に、“パンク”という大きな柱があって、そこを高めていけばいいんだという思いがあるから、それ以外やらないんです。初めて東京コレクションに出たときなんかは、まだめちゃくちゃ迷っていましたよ。

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2019桐生テキスタイルプロモーションショー会場にて

― 自分にとっての素材の重要性とは?

末安:KIDILLは女性のファンも多いんですが、基本的にはメンズブランドとしてやっています。自分が服を買うときもそうですが、どこかに“無骨さ”とか“張り”が欲しくなってしまう。そういうものがないとシルエットが出ないし、女性物よりもフォルムがしっかりと出たほうがいいと思っています。だから素材作りもそういう方向で考えています。

川上:生地は服になったときに化けるから面白いと思います。

末安:多分メンズって今はスニーカーブームだったりしていて、素材も同じように「これが今!」というのがあるんだと思います。軽くてシルエットがしっかりしているとか。KIDILLはパンクなどのユースカルチャーがベースにはあるのですが、今の時代感をとても大切にしています。
今回お願いした生地を、例えばウール100%で作ると、今の時代にはイメージとして重くて、今のトレンドと違うと感じるんですよね。そういった一連のトレンドを作っているのが、オフホワイトのヴァ―ジル・アブローとか、ラフ・シモンズなんだと思いますが。そういう、何とも言葉にしがたい時代の空気感からずれてしまうと、特にメンズはぶれてしまうと感じています。色とかシルエットだけではないんですよね。
実は前シーズン、パリ視察をしたんです。それで売れているブランドが使っている素材感とかも見られたし、なぜ売れているのか理解できた。次に使いたいと思っている御社の生地も、すごく今っぽいと思っています。

― トレンドって時代の気分でもありますね。不思議です。

川上:私はもともと天然繊維が大好きだったのに、桐生に来てからあまり欲しいと思わないんです。今の環境もあると思うのですが、ちょっと気分じゃない。自分の変化にちょっとびっくりしています。ファッションの心理の変化なのかなぁと思います。今まさに活躍しているデザイナーさんと関わることでもらえた、刺激なのかもしれません。

末安:川上さんは普通の機屋さんと違いますよね。なかなかいない存在だと思います。

川上:私は学生時代、アアルト大学に交換留学をしていて、その時にファッション学科の学生の作品の生地を作ったことがあるんです。その人はデンマークのコンテストで優勝して、私もとても嬉しかった。デザイナーのために良いテキスタイルを作りたいという原点はそこにあるのかもしれません。

― パリで初めてのプレゼンテーションはいかがでしたか?

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2019年1月にパリで行われたプレゼンテーションは“TOKYO PUNK CHIC”がテーマ

末安:すごく楽しかったと同時に、次の反省点も見つかりました。自分の中のイメージが、完全に東京コレクションだったなと。前回東京でのショーには、何百人もの人が雨の中会場に並んでくれていたでしょう? 海外に来たら、こんなに力が無いんだ!本当に無名なんだ!って改めて思いました。プレゼンテーションを3回やったのですが、1回目はビックリするほど観客が少なくて(涙)思わず、集まるまで開始時間を押しましたからね…。そういう経験ができて良かった。とにかく、1回目のときに受けた衝撃というか気持ちはこれからも大切にしたいと思います。

― パリで展示会を見てくださったバイヤーからの評判はいかがでしたか?

末安:メイド・イン・ジャパンは受けが良かったですね。日本のブランドは納期もしっかりとしていると言われますから、安心なんでしょうね。セールスは買って欲しいと思ったところに売れたと思っています。
次の2020年春夏コレクションは、6月にまたパリで発表する予定で動いています。面白いコラボも仕込んでいますので、期待していてください!

 

 

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