Feature

CREATORS TOKYOブランドと、そのモノづくりを支える人達・上

2011年からスタートした、東京発信のブランドをサポートするファッションアワード「Tokyo新人デザイナーファッション大賞プロ部門」を受賞した2つのCREATORS TOKYOブランドと、彼らのモノづくりを支える人々との対話を2回に分けておくる。彼らが発する言葉の中には、いくつもの共通したキーワードが見つかり、そこからモノづくりに必要な根本的な情報やアドバイスを知ることができる。1回目はchloma(クロマ)株式会社フクルによる鼎談から。

c_ph01

左)株式会社フクル代表・木島 広:群馬県桐生市の縫製工場に生まれる。文化服装学院卒業。2005年 ジュンヤ ワタナベ・コム デ ギャルソンのチーフパタンナーに就任。2008年 イオントップバリュ株式会社で衣料商品企画開発部チーフクリエイティブデザイナー。2015年 今までにない縫製業のあり方を構築するために株式会社フクルを設立。
中央・右)chloma 鈴木淳哉、佐久間麗子:モニターの中の世界とリアルの世界を境なく歩く現代人のための環境と衣服を提案するファッションレーベル
PHOTO: Kyohei Hattori

2017年に「Tokyo新人デザイナーファッション大賞プロ部門」(以下、ファッション大賞)に入賞し、CREATORS TOKYOブランドのメンバーとなったchloma。2次元的イメージの強い、近未来的デザインを特徴としているが、実物は複雑なパターンからなる造形的なアイテムが多く、形にする上でブランドのクオリティを一緒に考え、支えてくれる縫製業者との出会いが重要となる。そういう意味でchlomaのブランドアイコンでもあるアノラックパーカなどの縫製を引き受ける、縫製会社フクルの木島との出会いは大きい。元コム デ ギャルソン ジュンヤ ワタナベのチーフパタンナーとして活躍した木島に「この仕事は引き受けたい!」と思わせたブランドのビジョンと、縫製業者とブランドの上手なつきあい方について聞いた。

― ファッション大賞の支援も2年目となり、ブランドも安定してきたのではないかと思います。フクルと取り組むことになったきっかけを教えてください。

chloma鈴木淳哉(以下、鈴木):縫製が難しいサテン地の服や薄地の機能系ウェアを引きうけてもらえる縫製業者が見つからず、藁にもすがる思いでファッション大賞事務局に相談して、ご紹介いただいたというのが始まりです。
まず会社資料を送ってもらい、それを拝見しての第一印象は、とても現代的なフィーリングを持っているなということでした。ITを使っての最適化による小ロットでの生産システムの提案であったり、3Dトワルの料金表もあって、すごく新鮮で。未だにファックスでのやりとりが生き残っているこの業界のなかで、感覚的に信頼できそう、僕達のブランドと合いそうだなと思い、連絡しました。

c_ph02

chloma 2018年秋冬コレクションより

― クロマの仕事を引き受けたいと思った理由を聞かせてください。

木島 広(以下、木島):私達だけでなく、縫製業者であれば、おそらく仕事を受ける際に優先順位をつけていると思いますが、その優先順位が何によって左右されるかというと、ひとつは「人」ですよね。縫製側ですべての問題が解決できることは無く、かならず一緒に折衷案を探りながらやっていきます。「パターン」と「素材」と「人」という不確定要素でやるからには、一緒にコミュニケーションをとって作り上げていける人でないと。

もうひとつは「お金」。ときどき「支払いを待ってもらえませんか?」という人がいますが、私たちが待つということは、次の人にも待ってもらうということです。ビジネスをする上では、資金繰りをしっかりと計画して、支払いができるということを確定させてから依頼することが大切で、その責任を理解すること。その2点が決め手です。

そのビジネスの兼ね合いをいかに、いいスパイラルにもっていけるかというのは、やはりそのブランドの持っているパーソナリティであり、最終的にブランディングになってくるのかな、と思います。

クロマはその2つの要素が備わっていて、責任感がすごく強い。仕事を引き受け、優先順位を高めてあげたいと思ったのは、そういうことなんです。私達もポジティブになれる関係だったことが大きいです。

― 木島さんのお話しをうかがって、いかがですか?

鈴木:サテンのアイテムについてやりとりをさせていただく中で、すごく印象的で、さらに信頼感を抱くきっかけになったことがあります。
木島さんは、発注主の僕たちのこともすごく考えつつ、それと同じレベルで縫製職人さん達のことを考えているんです。ブランドの要望だけを実現しようとするのではなく、職人さん達の経済状況や置かれている状況であったりモチベーションといったところまで、現状をより良くするために逆に僕たちに、もっとこうしてくれないか?とリクエストしてくださって。
そこが僕には結構、驚くべきことだったんです。今までお付き合いのあったところだと割と“お客さん”扱いされていたので。ブランドから要望を出して、それができるかできないかの反応しかなかったように思います。
だから、その扱われ方がすごく新鮮だったし、とても信頼できると思いました。プライドを持ち、縫製業の未来を真剣に考えていらっしゃるのだなと思って。

木島:ハードルが上がりましたね!(笑)

chloma佐久間麗子(以下、佐久間):私達はデザイン性の高い服を作っていて、パターンの枚数も多く、仕様が複雑なので縫うのも大変で。ブランドを始めた当初は工場に依頼するのは難しいと思い、自分達で縫って量産していたんです。縫う大変さが理解できるので、工場さんへの指示を丁寧にするように心がけています。木島さんは、クロマが表現したいことを汲み取ってくださった上で、工場側の視点からこういうところが大変とか、パターンの指示をこうしてほしいとか、ここは少し厳しく要求しすぎなのでは?といったことを直接伝えてくれます。だからこそ、じゃあ次はこうしようと分かり、自分達も成長できるんです。

木島: 思ったように綺麗に縫えないという場合、発注しているブランド側もストレスがあると思いますが、実は縫製職人のほうがストレスなんです。できれば綺麗に縫ってあげたいし、褒められたい。私はいただいた情報を整理して、このレベルなら大丈夫、これ以上は相手のブランドも自分達も納得がいかないでしょうとお伝えします。おそらく、創り上げるものをどう表現したいか?ということを明確にしていくことが大切だと思うんです。基本的に、量産とサンプルでは縫製の時間のかけ方が違うので、それを理解した上で、どこを省いていいか、どこに力をいれていくかはコミュニケーションをとらなければ分からない。

鈴木:今まで色々な工場にひたすら、ここをもっとこうして欲しい!こうしてくれ!と、要求ばかりを出してしまっていたなとも気づいて反省しました。

佐久間:仕事を引き受けてくれるだけでありがたいと思っています。ただ、いざ物作りとなると、要求も高くなってしまう。展示会に出したサンプルと同等もしくはそれ以上のクオリティの服をお客さんに届けたいから。だから良い関係を築きながら、縫製職人さんのモチベーションも上がるようにしたい。縫うのが好きで、お仕事を続けている方が多いと思うので、こちらからも良い刺激を与えられるように頑張りたいなと思っています。

c_ph03

― 両者が良い関係性を築いているんですね。

鈴木:木島さんのことは業界の良き先輩と思っています。

木島:縫製業者が無くなって、最後に困るのは本当はブランドなんですよね。縫製工場の人達はコンビニで働くほうが、割りがいいくらいなんですから。ブランド側にきちんとその点を理解してもらうために投げかけるんです。メッセージを伝えて改善できることがあるのであれば、そうしていきたい。それは縫製工場側の責任だと思っています。それを伝えても何も変わらないのであれば、そのブランドは淘汰されていくんじゃないでしょうか?その投げかけを煙たいと思う人もいるかもしれませんが、クロマの2人は受け止めてくれました。

― ブランドは常に生産背景の悩みを抱えていて、縫製に関しては、単純に依頼する時期を繁忙期から外すことが解決策かと思っていましたが、木島さんが、端境期のある工場は続かないと言っていたことが気になります。

木島:工場は固定費が日々かかるんですね。固定費を稼がないと続けていけない。なおかつ品質が出せない工場は受注が受けられなくなり、固定費が払えなくなり、淘汰されてしまう。現状、日本の縫製業は需要と供給がマッチしているか、縫製工場が足りていない状況です。

私達は、工場が淘汰されて分散してしまった職人さん達と一緒に、会社や地域を越えてネットワークして新しい縫製業のビジネスモデルを創り上げようとしています。工場単位で考えるシステムよりも、融通がきき、余力があるんです。設備の問題でも、大きいから良い工場とか、小さいから効率が低い工場とは、一概に言えないことを理解する必要があります。
例えば、エルメスはすべての商品を自社工場で作っている。品質と原価の部分の両方への良い効果があるからです。と同時に、シーズンレスな商品も生産、販売できる。そのようなビジネスの新しい歯車を探していきたい。

― 80年代のデザイナーズブランドはトータルコーディネートで、毎シーズン新しいスタイルを提案して、常に新しいものにトライしていないといけない時代でした。今は若いデザイナーが定番商品を持っていても良い時代だと思います。定番に関してはどうお考えですか?

木島:デザインの定番もあっていいと思うのですが、結局、テクニカルな部分の定番をいかにブラッシュアップしていくかが大切だと感じます。
デザインって仕様なんですよね。私自身、仕様の集合体がデザインである、といった物作りの考え方を教わってきたので。ひとつひとつの仕様には正解がないですが、それをいかに縫いやすく、工程数少なく、作りやすくするか。そのための要素を探し、洗練させていく必要があります。細分化した仕様を簡略化、品質向上化していくことは日々の積み重ねが必要で、結果として工場の生産性が上がっていけたらウィンウィンの関係になれます。
毎回デザインを変えるなと言っているのではなく、変えなくても成り立つことがいくつかあると思っています。

例えば、私のいたブランドでは、厳選したボタンやファスナーしか使わず、パターンメーキングとデザインにエネルギーと能力を集中させていました。デザインはできあがったものの価値であって、まさに付属は付属でしかないので、そこに必要以上の力を注がないわけです。

最近は、裏付きとか裏無しとか、ロックとかパイピング始末といった仕様に、消費者は以前ほど興味がないと感じます。インスタ映えではないですが、外の見え方が重要なので、そこにブランドのアイデンティティを表現して、見えないところで簡略化していく。見せ掛けのポケットでもカッコいい表現はできますから。
そういうふうに考えると、クロマならクロマらしいアイデンティティを打ち出すことできるのでは?
ここはキープして、ここは崩してもいいや、ということを考えていくことが大切になると思います。

これから年々、縫製賃金は上がって行きます。それを前提に、今あるクオリティをどう販売価格に合わせていくかが問題。毎年最低賃金が3%上がり、3年で約1割上がるんだというのを前提に販売価格、下代の設定していかないと、ブランドビジネスは崩壊しかねないですから。

鈴木:とはいえ見栄えも、インスタに映らない部分も、うちは大事にしていて… 今、僕達ができるなかで両方がマックスなんですよね…

木島:クロマのパターンは病的なくらいにきれいで細かく、指示も明確なのでマックスといっているのは分かります。それでもデザイン的なことを少し工夫することは出来ると感じます。その工夫や省略は、マックスを知っている人間だからこそできること。

c_ph04

― 両者とも新しいものを取り入れることに積極的ですよね。マスカスタマイゼーションやパーソナルに寄り添うアプローチが共通する部分かなと思います。

鈴木:木島さんのところでも、洋服の3Dモデルソフトを使っているのですが、僕達のところでも、それとは違うソフトを使っていて、パターンの知識があれば3Dモデルを作れます。
バーチャルリアリティが近年目覚ましい進化をしていて、その中での生活が実現しつつある。2020年代にはバーチャルリアリティを用いてのコミュニケーションや社会的活動が広く普及するだろうと予測されていて、その世界での装いが求められるのではないかと。ブランドとしても自分の夢としても、そういった世界に対しても洋服を発信したいというのがあります。

木島:私はそこに一番興味があります。大手はトワル縫製をしていないところも多く、セカンドサンプルもシュミレーションするだけでといった方向に進んでいます。これからのパタンナーやデザイナーはそのことを知っていないといけない。
デザインとパターンの垣根が崩れてきています。つまり3Dプリンターと一緒で、デザインする人たちがプロダクトの設計も一緒にできるようになる。そうすると仮想現実からのリアルな服への落とし込みは、今後、非常に成長産業だと思っています。バーチャルなデータがあって、そこから自分にあった1着を作りたいとなったときに、フクルはどういった生産背景にしたらよいかを考え、推進していきたい。僕自身、そこの興味も合っているから、クロマとは一緒に出来るかと思います。

鈴木:3Dモデルって作るのにすごい知識が必要だったのですが、パターンの知識があれば、それらのソフトを使って、かなり見栄えの良いものが作れてしまう。つまりアパレル業界には洋服の3Dモデルを作れる人が潜在的にいっぱいいるということ。それって結構、脅威と同時に、めちゃくちゃ面白いことだと思っています。そういう意味で、革新的なことは進んで行きそうな予感もするのですが、それと同時に、アパレルの人のITへの疎さという問題はあります。

c_ph05

chloma x STYLY HMD collection より

― ファッションですから、触覚への欲求や、自分が信じている世界を共有できる人と集いたい気持ちは常にあるのではないでしょうか。

鈴木:僕もどちらかっていうと、そういう人ではあるんですが… 僕は何だかんだ実体主義だからこそ服というメディアにこだわっています。洋服を作っていて思うんですけど、リアルな人間って、そんなにスタイルが良くないじゃないですか。人は、人のイメージする人よりも、たぶん美しくなくて、イメージとリアルのかい離をどう補正していくかという考察の積み重ねの歴史がファッションの歴史なんじゃないかと思っています。
世の中の人がバーチャルの世界で、本当にリアルなコミュニケーションをしましょうという時、確実にリアルに似た服飾の力学が働いてきて、デザイナーがそれまでのリアルで培ったファッションのデザイン方法もすごく重要になってくると思います。

木島:バーチャルも過渡期なんですよね。まだまだリアルに近づいていない。もう少し時間がかかると思います。

鈴木:現在の状況ではバーチャルの世界はファッショナブルだと感じられるものが多くはありません。

木島:だからそこにファッションの人が入るか関わっていくほうがいい。V Tuberというのが出てきていて、それがおしゃれになってきたら、さらにヴァーチャルな世界が広がっていくんじゃないかと。早い段階から準備しておくことで、この先の20~30年先の自分のビジネスが作られていくと思います。私はクロマのそういう先見性がいいなあと思います。

佐久間:クロマの服は液晶を通して見られる前提で表現をすることが多いのですが、実物を手にして袖を通した時に、画像で見て抱いていたイメージよりも良かった!と思ってもらいたい。

木島:そこの深みが必要になりますね。

鈴木:画面に映らない部分もしっかりやっていきたいと思います。今ビジネスを回していくことを最優先に考えると、うちのブランドくらいのポジションだったら、ここまで品質を高める必要はもしかしたら無いのかもしれないけれど…

木島:いやいや、そこは本当に当たり前にしておかないといけないと思います。要はさっきから話に出ている、マックスにいろいろやった人が次の道を開拓していかないと、先が見えてこない。

― 未来を見据えた試行錯誤でブランドの道が拓けるということですね。売上げが伸びるというのはファンが増えるということですよね。

鈴木:今、お客さんの反応はSNSを中心に割と観測しやすい状態にあって。5月に予定している2019AWの展示会での反応も、木島さんや職人さんにフィードバックできるようになりたいなと思っています。

木島:フィードバック、嬉しいと思いますよ。やっぱり職人達だって、自己実現のために仕事していると思いますから。
ブランドと職人をつなぐ作業を、間接的に私がやるようにしているわけです。足を運んで、たわいのない話をしたり、一緒に大福を食べたり!時間や気持ちを共有しないとモチベーションは上がらない。私はブランドの皆さんの代わりに、楽しみながら、それをしています。職人が、次も頑張ろう!と思えるような情報のフィードバックは、モノづくりしている側からしても非常にいいモチベーションの要素になります。そういう、ちょっとした心使いは、他のことにも是非やっていただけると!

 

 

一覧にもどる
トップへ